通販業務に遍在する「兼務」の課題と解決策とは?(15/21)
~担当業務の集計と、運用上の課題を分けて考える~

公開日時 2026/10/09
この記事でわかること
エルテックスの通販事業者に関する自主調査の掲載集計を手がかりに、担当業務の広がりと運用上の課題を整理します。ただし、人員数、具体的な兼務の組み合わせ、属人化の程度は、この集計だけでは判断できません。
商材別の説明は、取り扱い割合から業務負荷を測定した結果ではなく、各商材の運用特性を踏まえた考察です。システムの分断による二重入力など、現場で確認すべき課題と改善の方向性を解説します。
担当業務の集計と、兼務に関する考察
兼務がある場合に確認したい業務負荷
掲載集計では、複数の担当業務に回答が分布しています。ただし、業務別の回答率だけでは、同じ人がどの業務を組み合わせて担当しているか、何人で運営しているか、知識が特定の人に集中しているかは確認できません。以下では、複数業務を兼務する運用がある場合に起こり得る課題を考察します。
例えば、同じ担当者が受注確認、出荷指示、SNS配信、顧客問い合わせに対応する運用では、作業の集中や優先順位の調整が課題になる場合があります。定期通販では配送スキップや契約変更なども含め、実際の作業量と分担を確認する必要があります。これは調査で確認された具体的な兼務の組み合わせを示すものではありません。
システムの分断が「二重入力」と属人化を生む
さらに、システムが分断されている環境では、「EC側で受けた変更内容を基幹側へ転記」「コールセンターで受けた内容をCRMへ手入力」といった二重入力が発生しやすく、担当者の作業時間を圧迫します。これは単なる工数増加だけでなく、入力ミスや対応漏れの原因にもなります。
このような状況では、単純な機能追加よりも、“業務を横断して一元管理できるシステム設計”が重要になります。受注・顧客・定期契約・問い合わせ履歴・販促履歴を一つの顧客軸で統合できる環境を整えることで、担当者依存を減らし、少人数でも運営可能な体制を作りやすくなります。
AI時代こそ「統合された仕組み」が重要に
AIや自動化に必要な情報は用途によって異なります。応対要約などは対象の記録から試せますが、顧客別の提案や解約予兆検知では、必要な顧客・契約・購買履歴を正しく対応付けて参照・連携できることが重要です。
通販事業では、「人を増やして回す」時代から、「統合された仕組みで少人数運営を支える」時代へ移行しつつあります。システム選定においても、単体機能ではなく、“兼務前提の現場でも回るか”という視点がますます重要になっています。
年商規模別に見る「兼務」の実態と注意点
エルテックスの第25回通販調査(2025年)のクロス集計表をもとに、通販・ECの年間売上規模別に、回答者が担当する業務の広がりを整理します。平均担当業務数は、複数回答で選ばれた業務項目の数を回答者1人あたりで平均した値です。業務負荷や具体的な兼務の組み合わせを示すものではありません。
※売上区分・回答者数について:本記事の「年商」は、会社全体の売上ではなく、会社または事業所の通販・ECの年間売上を指します。区分は元のクロス集計表に従い、「1億~10億円未満(n=75)」「10億~100億円未満(n=172)」「100億円以上(n=53)」としています。nは回答者数であり、企業数や各社の運営人数ではありません。
| 年商規模 | n | 平均担当領域数の目安 | 担当している業務の上位 | 最も作業比率が高い業務の上位 |
|---|---|---|---|---|
| 1億~10億円未満 | 75 | 約3.20領域 | システム(ソフト)業務 62.7%、システム(インフラ)業務 45.3%、マーケティング・CRM業務 45.3% | システム(ソフト)業務 32.0%、受注・決済業務 18.7% |
| 10億~100億円未満 | 172 | 約3.14領域 | マーケティング・CRM業務 50.6%、システム(ソフト)業務 50.0%、広告・デザイン業務 39.5% | マーケティング・CRM業務 30.8%、システム(ソフト)業務 17.4% |
| 100億円以上 | 53 | 約2.68領域 | マーケティング・CRM業務 49.1%、システム(インフラ)業務 43.4%、システム(ソフト)業務 39.6% | マーケティング・CRM業務 35.8%、システム(インフラ)業務 17.0% |
集計の対象と計算方法
平均担当業務数は、SC4.1「担当している業務(いくつでも)」の業務10項目について、延べ回答件数を各売上区分の回答者数で割って算出しています。「上記以外の業務」を含み、「あてはまるものはない、通販事業やECには関わっていない」は含めていません。後者の回答は全区分0人です。
計算結果は、1億~10億円未満が240件÷75人=3.20項目、10億~100億円未満が540件÷172人=3.1395…項目、100億円以上が142件÷53人=2.6792…項目です。表の数値は小数第3位を四捨五入しています。
調査全体は、マーケティング&コミュニケーション担当、各種オペレーション担当、情報システム担当を各100人、計300人に割り付けています。売上区分間の違いには回答者の職種構成なども関係する可能性があり、この集計だけで業務負荷、属人化の程度、具体的な兼務の組み合わせや、分業化の進行を判断することはできません。
出典:エルテックス「第25回通販調査」(2025年)クロス集計表、SC3・SC4.1・SC4.2。
1億〜10億円未満の掲載値と、運用上の確認点
年商1億〜10億円未満では、担当業務の回答率合算から見た平均担当領域数が約3.20領域となりました。上位はシステム(ソフト)業務62.7%、マーケティング・CRM業務45.3%、システム(インフラ)業務45.3%、受注・決済業務36.0%、在庫管理34.7%です。主担当でもシステム(ソフト)業務が32.0%と高く、これらは業務別の回答率であり、少人数体制や同一人の具体的な兼務を直接示すものではありません。運用上は、担当範囲と判断基準、例外対応を棚卸しして確認することが重要です。
10億〜100億円未満の掲載値と、運用上の確認点
年商10億〜100億円未満では、平均担当領域数の目安が約3.14領域となりました。マーケティング・CRM業務50.6%、システム(ソフト)業務50.0%、広告・デザイン業務39.5%が高く、販促・CRM・EC改善を同じチームや担当者が兼務している可能性があります。一方で、主担当はマーケティング・CRM業務30.8%が最多です。この集計だけでは成長段階や分業化の進行は判断できません。複数業務を兼務している場合は、施策量、データ集計、システム横断作業が負担になっていないかを実際の業務で確認します。
100億円以上の掲載値と、運用上の確認点
年商100億円以上では、平均担当領域数の目安が約2.68領域まで下がります。主担当ではマーケティング・CRM業務35.8%が最も高く、システム(インフラ)業務17.0%、システム(ソフト)業務11.3%が続きます。平均値の違いだけでは、専門化の進行や部門・委託先の数は判断できません。部門や委託先が複数ある運用では、顧客・応対・販促・在庫の情報を必要な担当者が参照・連携できるかを確認します。
年商規模別に検討したいシステム設計上の論点(実務上の考察)
| 年商規模 | 想定する運用上の課題 | 注意点 |
|---|---|---|
| 1億〜10億円未満 | 少人数で兼務。システム、受注、在庫、CRMを横断して見る必要がある | 画面や業務フローを分けすぎない。受注、顧客、定期契約、在庫、問い合わせを1画面または少ない遷移で確認できる設計が重要 |
| 10億〜100億円未満 | 施策量が増え、販促・CRM・広告・EC改善の兼務が重くなる | 手作業集計やCSV連携を減らし、CRM施策、SNS、メール、広告効果、購買履歴を同じ顧客軸で見られる状態を作る |
| 100億円以上 | 専任者や複数部門・委託先が関わる場合、部門間・外部委託先間の連携が複雑になる可能性がある | システム間連携、権限設計、マスタ管理、ログ管理を重視。属人化対策は担当者個人ではなく組織横断のデータ統合として考える |
取り扱い商材別に見た兼務の考察(調査で直接測定した業務負荷ではありません)
食品・ドリンク・酒は、受注・在庫・出荷・同梱物の兼務が重くなりやすい
食品・ドリンク・酒は全体で36.3%と最も多く、1億〜10億円未満では41.3%と高い比率です。賞味期限、温度帯、配送タイミング、キャンペーン同梱などの運用要素が多く、少人数体制では受注確認と在庫確認、出荷指示、顧客対応を同じ担当者が見る場面が増えます。注意点は、現場判断で回している同梱・出荷ルールを放置すると、出荷ミスや問い合わせ増につながることです。
健康食品・サプリメント・医薬品は、CRMと顧客対応の兼務が発生しやすい
健康食品・サプリメント・医薬品は全体31.7%、10億〜100億円未満で32.6%、100億円以上で32.1%と、規模を問わず高い商材です。定期購入、継続促進、休止・解約対応、使用方法の問い合わせが発生しやすく、CRM担当と顧客対応担当の境界が曖昧になりやすい領域です。注意点は、解約理由や問い合わせ内容を構造化して残さないと、離脱改善やAI活用の材料にならないことです。
化粧品・コスメは、CRM・広告・SNS・同梱施策の兼務が濃くなりやすい
化粧品・ヘアケア・コスメの取り扱い割合は、掲載集計の10億〜100億円未満で29.1%です。この割合は業務負荷や成長段階を示すものではありません。実務上は、CRM施策、広告、SNS、同梱物、レビュー対応を同時に運用する場合の負荷を確認します。担当者が複数施策を兼務する場合、施策ごとの成果が分断されると「どの接点が継続に効いたのか」が見えなくなります。注意点は、販促ツールを増やす前に、顧客軸で反応履歴を統合することです。
ファッション・雑貨系は、商品点数と更新頻度が兼務負荷を押し上げる
ファッション、インテリア、雑貨系は商品点数や入れ替え頻度が高く、商品マスタ、画像、在庫、返品、キャンペーン更新の負荷が大きくなりやすい商材です。少人数で運営している場合、EC更新担当が在庫確認や販促作成も兼務しやすく、更新遅れや販売機会損失につながります。注意点は、商品マスタと在庫データの整備を後回しにしないことです。
家電・パソコン、不動産・サービスなどは、説明・問い合わせ・システム連携の負荷に注意
家電・パソコン、不動産・サービスなどは、単純な注文処理だけでなく、仕様説明、比較検討、見積、問い合わせ対応が長くなりやすい商材です。商材理解が必要なため、特定担当者に問い合わせや顧客対応が集中しやすくなります。注意点は、FAQ、応対履歴、商品情報をシステム上で共有し、担当者の知識に依存しすぎない状態を作ることです。
年商規模と商材特性で変わる構造的な課題を改善する統合型システム
掲載集計には年商区分別の平均担当領域数や業務回答率の違いがありますが、人員数や個人の兼務の組み合わせ、属人化の程度、時間的な分業化の進行までは分かりません。改善策は年商だけで決めず、実際の担当範囲、作業量、部門間の受け渡しを確認して検討する必要があります。
商材特性によって想定される運用課題も異なります。以下は調査で測定した負荷ではなく、実務上の考察です。食品・飲料では在庫・賞味期限・出荷・同梱物の確認が重く、健康食品や化粧品では定期契約、解約抑止、CRM、顧客対応が密接に結びつきます。ファッションや雑貨では商品点数と更新頻度が高く、商品マスタや在庫更新の負荷が大きくなります。つまり通販業務の兼務は、単に人員数の問題ではなく、年商規模と商材特性の組み合わせによって発生する構造的な課題です。
このため通販システムを選ぶ際は、「何人で運用しているか」だけでなく、「どの商材を、どの規模で、どのチャネルで販売しているか」まで含めて検討する必要があります。兼務が多い企業ほど、複数画面を行き来するシステムや、CSV連携を前提とした運用は負担になりやすく、属人化を強めます。受注、顧客、定期契約、応対履歴、在庫、販促履歴を同じ顧客軸で見られる統合型のシステム設計が、少人数運営と成長の両方を支える土台になります。

